以前MMSTが公演で韓国を訪れた際、大道芸人やストリートミュージシャンが集まり、観光客で賑わうある街道に立ち寄ったことがありました。同行していた韓国俳優がそのパフォーマンスを見て、「バッ!パッ!がないですね」と私に話してきました。MMSTの稽古においてよく演出が使う表現で、要は観客に対し「見てください」という受け身の姿勢では関係性自体が弱くなってしまうので、まずは「見ろ!」という能動的な姿勢で舞台に立ちなさい、という話なのですが、それを実現するべく試行錯誤を繰り返す中で、全てが「バッ!」の中に濃縮され創作者同士の共通言語となって使われています。また、別の韓国俳優は、自身が出演した公演について次のように話ました。「今回観客の集中を感じてとても怖くなった。しかし、その集中に対して、こうしてやる、こうしたらどうか、と必死に応答を繰り返し続けたところ、まるで会話をしているような感覚があってなんとも言えない感じだった」。私はこのような何気ない発言の中に観客や空間と対峙する俳優の凄まじい「実践」の積み重ねを感じ、俳優という人間が行う仕事の奥深さを感じました。二度と同じ瞬間は来ないという特殊な環境下で「何を考えるかわからない他者(=観客)に対峙する」ということへの畏怖と敬意、そして、そこに正面から対峙する為の確かな研鑽を積んだ人間(=俳優)が、人間自体の役割がボヤけ始めてきた現代という不確かな時代には大きな意味を持つのではないでしょうか。