2024/10/13

欲望と憧れ

 こうなりたいという憧れがある場合、そこになんとしても近づきたいという欲望の有無によって、それが憧れに留まるのか、具体的な目標になるのかが変わってくると思います。憧れとは、辞書的な意味合いでは理想とする物事や人物に強く心引かれる状態を指しますが、それ自体ではイメージに過ぎません。その憧れを現時点の自分に照らし、不足している部分を補おうとする欲望の強さがどれだけ強いか、そして、それに対して現状の自分をどれほど正確につかめているかが、単純なイメージの世界から、具体的な問題へと進む鍵となっていきます。憧れを持つことは決して悪いことではないですが、ただ憧れを抱くばかりではなく、そこに到達したいとう欲望を強くする必要があるのだと思います。

ここでいう欲望を、自分のことだけを考える自己欲ではなく、自分の可能性を広げるための具体的な方法として捉えていけたらと思います。

2024/10/06

「型」の効能を考える

 「ものを作るときに形をつくりだすもとになるもの」を意味する「型」について、 最近のMMST稽古では、俳優が自身の基本となる「型」に立ち返り、それを自身の美学として徹底し、追求していくという話がよく出ています。 どの分野でも言われることですが、完全なオリジナリティから出発することはほとんどありません。日本では、剣道、柔道などの武道の精神、能狂言などの伝統芸能においても「型」を重要視することは多くの人が知るところです。 土台となるものがない状態では、採点基準がないテストを受け続けるようなもので、うまくいっているのか、いないのかを判断することはやはり難しいものです。 自分の中に「型」をもつこと、そしてその「型」を軸とした判断基準を持って反復練習を重ねながら技能や精神を鍛錬していく先に、その人固有のオリジナリティが見出されてくるのだそうです。「型」の奥深さを感じます。

2024/09/29

「あらすじ」と「感想」

 以前MMSTでは、戯曲勉強会をおこなっていたことがあります。ギリシャ悲劇から現代まで、国内外の著名な戯曲を週に2~3本のペースで読み、参加者各自が400字以内にまとめた「あらすじ」を共有して、どのような作品であったかを勉強するというものです。 ここでは、読者が感じたことや考えたことをまとめる「感想」ではなく、作品には何が書かれているか?という「あらすじ」を書くことがルールでした。 この「あらすじ」を、決められた字数内に的確にまとめる作業が予想以上に難しく、気を抜くと自分勝手な感想になってしまいます。同じものを読んでいるはずなのに、参加者がそれぞれ全く違う観点でまとめていることが多々ありました。 作品は自由に解釈すれば良い、という声が大きくなっている昨今ですが、様々な考え方や多様な価値観が日常に溢れる時代こそ、より「あらすじを掴む読解力」を鍛え直さなければならないのだろうと思います。

2024/09/22

しつこくあれ

 ビジネスで成功する秘訣は営業力でもビジネスセンスでもなく、「しつこさ」であるという話を聞きました。 「あの人はしつこい」という文言が、ネガティブなニュアンスで使われる場合が多いように、人に嫌われてしまうと思われがちな「しつこい」ですが、「一度だめでも成功するまでトライする信念がある人」と言い方を変えると印象がまるで違います。 何度失敗してもくじけずに努力をするということが、最終的にビジネスでも結果を残すというのも納得ができるところです。 これはビジネスだけの話でもなく、どの分野でもいえることなのではないかと思います。 私の知人にしつこさが服を着て歩いているような人がいます。一部から敬遠されるところもありますが、とにかく何にしても簡単に諦めない。ただ、本当にこうだと思うことをなんだかんだ実現しているのです。その人を横目に、「しつこくあれ」を私も教訓にしています。

2024/09/15

「なんとなく」の害

 日常生活において、なんとなく選んで決定してしまうことは少なくありません。それは「なんとなく」という感覚的な気持ち以上に特にこだわりがあるわけでもないですし、普段の生活の中で些細なことの一つひとつを分析、思考して理由づけていくことは疲れると思ってしまうからです。 ただ、舞台上で実際に創作を進める過程においては、この「なんとなく」の決定は「そこにこだわりがない」「価値をおいていない」ということと同義ということになってしまいます。名優と言われる人達の中には「舞台上では何も考えていない」「感覚的にやっている」という人がいますが、それは言葉上でのことであり、実際は考えていないわけでも、選択を放棄しているわけでもないのだろうと思います。 MMSTでは、「今、この瞬間をどうつくるか」という舞台の戦いの場では、この「なんとなく」が最も強く厄介な敵であると考えて日々の訓練を重ねています。

2024/09/08

舞台上で生きること

 公演の本番はもちろん、稽古においても、私は舞台上で集中する俳優に神秘性を感じる時があります。

「舞台に上がった俳優は日常とは違う感覚をもって時間と空間を生み出す」 私は当初この話を抽象的に考えていましたが、様々な現場に立ち会う中でかなり具体的なことだと理解するようになりました。 日常生活にはない呼吸感覚や身体感覚を鍛錬した俳優は、舞台に上がった時、確かにその時空、瞬間を生きている。生き直しているというと語弊がありますが、普段生活する中での体や意識とは別物として登場し、別次元の世界(空間)をつくり出します。 非日常を生きるために何が必要かを真剣に考え、もがいて、一歩舞台に上がればそこに生きる覚悟をもつ俳優が説得力を持つのは当然のことであり、見る者の価値観を揺さぶる可能性を広げることも頷けます。俳優が舞台に生きる意味はここにあるのだろうと思います。

2024/09/01

フラットな国際交流

 現在MMSTでは台湾、韓国、日本の演劇関係者らと共同制作のプロジェクトを進めています。国際交流事業を行う場合、各国の俳優やスタッフはアトリエにて共同生活を送る場合が多いですが、互いの生活習慣、食生活などに触れた際にはおのずと文化の違いや価値観について振り返る機会になります。また、生活面では食事後の皿洗いをジャンケンで決めるという方法を取り入れており、なぜか毎回とても盛り上がります。この皿洗いジャンケンは公平に片付け者を決めるということではありますが、それだけでなく、関係者間の円滑なコミュニケーションにも繋がっていると感じることが多々あります。

グー、チョキ、パーのたった三種類の手の形を使ったシンプルな遊びが、国を超えて、一つのルールのもとに、知らずしらずのうちに交流を深めています。

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