2024/11/17

実現する力

多くの仕事を抱えればかかえるほど、一つの作業にかける時間が少なくなります。仕事だけに集中できる場合はまだいいのですが、日常生活などの別の要因も含め、時間が取られる場合も少なくありません。こうなると、多くは様々な理由をつけて抱えている仕事のうちどれかを手放したり、諦めたりします。一方で、どんなに大変なことがあっても、多くのことを実現してしまう人もいます。その人の行動を注視すると、一つのひとつのクオリティを下げて対応しているというよりは、作業スピードを上げている場合が多いようです。MMSTのトレーニングでも同様のことがよく言われます。「やることはむしろ増やす」「スピードを上げて、(やるべきことは)全てやる」これをやることはとても難しいのですが、実現する力はこのことを積み重ねられるかにあるようです。できない理由を見つけることは簡単ですが、何より「実現する」という目的をぶらさないようにしたいと思います。

2024/11/10

意味の理解と感覚の理解

 他国の人々と一緒に何かをやろうという時、共通言語がない場合は、先ず言葉の壁を感じることが多いと思います。伝えたいことの意味を辞書やアプリで調べたり、ボディランゲージを使ったり、様々な方法で意味を伝えようとします。一方で、「相手の話している内容はわからないが、怒っていることは分かる」というようなことを一度は体験したことがあるのではないでしょうか。人間は、相手のしぐさや話し声のトーン、目の動き方など言葉だけではない多くの情報を受け取り、状況を把握していることは明らかです。殊に演劇は、言葉や体を使います。言葉も重要な要素の一つですが、その言葉の意味だけでは説明のつかない感覚を、俳優の体を通して具現化する芸術だと思います。そこに面白みがあり、古代ギリシャから続く演劇の叡智だと思います。

2024/11/03

来た時よりも美しくの精神

 自分たちが使用した場所を去る時、「来た時よりも美しく」という態度や考え方は重要だと思います。次に使う人への気遣いそのものが人間の精神的な修行にも通じるようです。 稀に、自分たちさえ良ければいいや、という人もいますが、その態度がまわりまわって日本、さらには世界をダメにしていくのではないかと思います。この「自分たちさえ」という考え方は、いわゆる“子ども”の態度であり、いつでも守ってくれる親兄弟の中でしか通じないはずです。少なくとも、次に使う人への想像力と気遣いがあることが大人であり、そのような“大人”が多い社会が、どの分野においても発展を支えるのだと思います。この他者への想像力、意識をどれくらいもてるか、また、実際に行動に移せるか、とても簡単なことのように思えますが、なかなか実現したり継続することは難しいことです。少なくとも大人の態度として、日々の生活の中でも心掛けたいと思います。

2024/10/28

言葉と空間

私は韓国や台湾など他国の演劇人と一つの舞台を創作する現場によく立ち会うことがあります。複数の違う言葉が舞台上で会話されるような作品である場合、同じ言葉を話す者同士の会話のようにスムーズにいきません。台本を頭から順番にやりとりしてもうまくいきませんし、相手の台詞を丸暗記すれば良いというものでもありません。

一方で、たとえ言葉の意味がわからない状態でも、相手の俳優が今どういう状態なのか、呼吸や体を各所のアンテナとしてつかって、関係性や空間が意識されつづけている舞台では、観客もなぜか引き込まれたり、集中できたりします。この時に客席も含めた劇場空間全体で非日常的な感覚が共有されるのだと私は思います。言葉(台詞)は、舞台の魅力の一つには変わりませんが、意味内容を伝えるものだけではありません。俳優が言葉を使用して目には見えないが確実にある関係性を生み出し、観客を巻き込む空間をつくり出しています。


2024/10/20

確認作業について

 人は、物事を進行する際、それが予定通り進んでいるか、間違いはないか、確認をすることがあります。社会の中では、小さい頃から、たとえば、忘れものはないか?などと確認をすることを求められますし、当たり前の態度として考えられています。しかし、確認のためにたっぷり時間をかけることが、実は足を引っ張る場合が多いのだと知りました。 舞台に関していえば、“今、この時、この瞬間”を生きる舞台俳優にとって、一歩引いて確認している余裕はないと言われるように、確認作業は常に過ぎ去る過去を振り返ることでもあるため、一瞬の確認と共に進行しなければ「今」から遅れてしまいます。ここで難しいことは、単に確認項目を減らすということではないことです。 むしろ毎瞬多くの事項を対象にすばやく確認をし、瞬間的に適切な対応をする、このことは優れた俳優の条件の一つかもしれません。確認のしすぎが今を取り逃がす、ということは私自身も意識したい点です。

2024/10/13

欲望と憧れ

 こうなりたいという憧れがある場合、そこになんとしても近づきたいという欲望の有無によって、それが憧れに留まるのか、具体的な目標になるのかが変わってくると思います。憧れとは、辞書的な意味合いでは理想とする物事や人物に強く心引かれる状態を指しますが、それ自体ではイメージに過ぎません。その憧れを現時点の自分に照らし、不足している部分を補おうとする欲望の強さがどれだけ強いか、そして、それに対して現状の自分をどれほど正確につかめているかが、単純なイメージの世界から、具体的な問題へと進む鍵となっていきます。憧れを持つことは決して悪いことではないですが、ただ憧れを抱くばかりではなく、そこに到達したいとう欲望を強くする必要があるのだと思います。

ここでいう欲望を、自分のことだけを考える自己欲ではなく、自分の可能性を広げるための具体的な方法として捉えていけたらと思います。

2024/10/06

「型」の効能を考える

 「ものを作るときに形をつくりだすもとになるもの」を意味する「型」について、 最近のMMST稽古では、俳優が自身の基本となる「型」に立ち返り、それを自身の美学として徹底し、追求していくという話がよく出ています。 どの分野でも言われることですが、完全なオリジナリティから出発することはほとんどありません。日本では、剣道、柔道などの武道の精神、能狂言などの伝統芸能においても「型」を重要視することは多くの人が知るところです。 土台となるものがない状態では、採点基準がないテストを受け続けるようなもので、うまくいっているのか、いないのかを判断することはやはり難しいものです。 自分の中に「型」をもつこと、そしてその「型」を軸とした判断基準を持って反復練習を重ねながら技能や精神を鍛錬していく先に、その人固有のオリジナリティが見出されてくるのだそうです。「型」の奥深さを感じます。

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