2026/08/09

悲劇と喜劇

 MMSTでは、2020年からシェイクスピアの「オセロ」の創作に取り組んできました。「オセロ」はシェイクスピアの四大悲劇の一つとして今なお世界中で上演されている作品です。2020年に創作したインスタレーション作品をVer.1.0としてスタートし、2022年にはver.2.0として国際共同製作による舞台作品を創作、以後釜山国際演劇祭での上演や国際交流プログラムEATIでの上演、2025年には台湾の2劇場にて[Ver.2.0]と[Ver.3.0]を同時上演しました。

「オセロ」は、従臣イアーゴの策略に嵌られた主人公のオセロが、最愛の妻の不貞を疑って妻を殺し、罠だと知って後悔の末に自身も自害してしまう、という物語です。最初の読後感では、この行き場のない展開に悶々としながらも、フィクションの一つとしてそこまで深く考えていなかったように思います。しかし、オセロの舞台創作を間近で繰り返し見るうちに、この悲劇的な物語はシェイクスピアが捉える人間象によって炙り出された「喜劇」なのではないかと思うようになりました。特に、MMSTで創作したオセロ[ver.2.0]では、登場人物は全て老人、しかも繰り返し「オセロ」を演じ続けてきた役者たちとして演じられています。既に分かっている結末を、杖を頼りに足も覚束ない老人たちが演じ続けている「オセロ」、そして何故か真面目であればあるほど、どこか可笑しみが出てきます。シェイクスピアの作品は人間というものの不完全さや不合理さに直接素手で触れていくような感触があり、その地平においては悲劇も喜劇も並列に並べられてしまう、という驚きのようなものがあります。「人間の業」と呼ぶしかないようなものに対する作家の視線や執着が、私たちを惹きつけているものの正体なのかもしれません。

  MMST代表がかつて「自分はコメディをつくっているつもりだが、なかなかそう思われない」と冗談めいて話していたことがあります。一見悲劇と映るものの中に見出される喜劇。演劇の面白さとは、俳優と空間を共有しテキストに描かれていること以上の発見をしていくというところにあるのではないでしょうか。

Translate