2024/10/28

言葉と空間

私は韓国や台湾など他国の演劇人と一つの舞台を創作する現場によく立ち会うことがあります。複数の違う言葉が舞台上で会話されるような作品である場合、同じ言葉を話す者同士の会話のようにスムーズにいきません。台本を頭から順番にやりとりしてもうまくいきませんし、相手の台詞を丸暗記すれば良いというものでもありません。

一方で、たとえ言葉の意味がわからない状態でも、相手の俳優が今どういう状態なのか、呼吸や体を各所のアンテナとしてつかって、関係性や空間が意識されつづけている舞台では、観客もなぜか引き込まれたり、集中できたりします。この時に客席も含めた劇場空間全体で非日常的な感覚が共有されるのだと私は思います。言葉(台詞)は、舞台の魅力の一つには変わりませんが、意味内容を伝えるものだけではありません。俳優が言葉を使用して目には見えないが確実にある関係性を生み出し、観客を巻き込む空間をつくり出しています。


2024/10/20

確認作業について

 人は、物事を進行する際、それが予定通り進んでいるか、間違いはないか、確認をすることがあります。社会の中では、小さい頃から、たとえば、忘れものはないか?などと確認をすることを求められますし、当たり前の態度として考えられています。しかし、確認のためにたっぷり時間をかけることが、実は足を引っ張る場合が多いのだと知りました。 舞台に関していえば、“今、この時、この瞬間”を生きる舞台俳優にとって、一歩引いて確認している余裕はないと言われるように、確認作業は常に過ぎ去る過去を振り返ることでもあるため、一瞬の確認と共に進行しなければ「今」から遅れてしまいます。ここで難しいことは、単に確認項目を減らすということではないことです。 むしろ毎瞬多くの事項を対象にすばやく確認をし、瞬間的に適切な対応をする、このことは優れた俳優の条件の一つかもしれません。確認のしすぎが今を取り逃がす、ということは私自身も意識したい点です。

2024/10/13

欲望と憧れ

 こうなりたいという憧れがある場合、そこになんとしても近づきたいという欲望の有無によって、それが憧れに留まるのか、具体的な目標になるのかが変わってくると思います。憧れとは、辞書的な意味合いでは理想とする物事や人物に強く心引かれる状態を指しますが、それ自体ではイメージに過ぎません。その憧れを現時点の自分に照らし、不足している部分を補おうとする欲望の強さがどれだけ強いか、そして、それに対して現状の自分をどれほど正確につかめているかが、単純なイメージの世界から、具体的な問題へと進む鍵となっていきます。憧れを持つことは決して悪いことではないですが、ただ憧れを抱くばかりではなく、そこに到達したいとう欲望を強くする必要があるのだと思います。

ここでいう欲望を、自分のことだけを考える自己欲ではなく、自分の可能性を広げるための具体的な方法として捉えていけたらと思います。

2024/10/06

「型」の効能を考える

 「ものを作るときに形をつくりだすもとになるもの」を意味する「型」について、 最近のMMST稽古では、俳優が自身の基本となる「型」に立ち返り、それを自身の美学として徹底し、追求していくという話がよく出ています。 どの分野でも言われることですが、完全なオリジナリティから出発することはほとんどありません。日本では、剣道、柔道などの武道の精神、能狂言などの伝統芸能においても「型」を重要視することは多くの人が知るところです。 土台となるものがない状態では、採点基準がないテストを受け続けるようなもので、うまくいっているのか、いないのかを判断することはやはり難しいものです。 自分の中に「型」をもつこと、そしてその「型」を軸とした判断基準を持って反復練習を重ねながら技能や精神を鍛錬していく先に、その人固有のオリジナリティが見出されてくるのだそうです。「型」の奥深さを感じます。

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