MMSTでは、2022年にフランスの作家、マルグリット・デュラスの「La Douleur/苦悩」(1985年)を原作とし、熊本の劇作家、川津羊太郎さんに上演テキストを書いていただき、上演しました。 川津さんに依頼する当初、当団体代表の百瀬はデュラスの日本翻訳版新書を川津さんにただ「よろしく」、とだけ送りました。連絡担当としては当然のように演出家と劇作家でやりとりが何ターンかあるものだと思っていましたが、両者共に何も言いません。期日さえはっきり決めてもいないのに、川津さんからも何も確認がありません。次第に私は焦り、百瀬に川津さんに確認することがあるか聞くと、「川津さんに任せているから何も連絡しなくて大丈夫」とのこと。その後、川津さんからは頃合いの時期にテキストデータが送られてきました。そして、その後預かったテキストについて、百瀬は言葉ではなく、上演という形で川津さんに応えたのでした。任せることの真髄を見たような一件でした。
2024/07/28
2024/07/21
呼吸とコミュニケーション
先日、韓国釜山で開催された「ロミオ&ジュリエット」をテーマとしたフェスティバルにM.M.S.T代表の百瀬が演出家として参加しました。出演者は、韓国人俳優と、日本人ギタリスト。分野、国、言葉も違う実演家の共演です。人間のコミュニケーションといえば一般的に、言葉や身振りなどを交わして意思疎通を図ることが多いと思いますが、今回の創作では3つの音素(破裂音、摩擦音、共鳴音)で会話の可能性を探ろうという試みが行われていました。 稽古では呼吸感覚の意識と音とのコミュニケーションの作業が行われ、俳優の台詞はあるものの、俳優とミュージシャンは、会話上のやりとりやカウントをとってタイミングを合わせるということはしていませんでした。 しかし、呼吸一つとっても多くの情報を伝える身体言語があり、確かにそこに「ある」コミュニケーションの瞬間が垣間見られた時、人と人が共存して目に見えない価値を創造する演劇の可能性を感じました。
2024/07/15
「今」の価値
「今を大事に」という言葉はよく聞きますが、その「今」を本当に意識できているかと振り返れば日常生活ではなかなか難しいものです。 MMSTでは、創作に関して、関係するメンバーには本番も稽古も同じということを最初に共有します。 稽古であっても、本番と同様に臨むこと。 体調が悪いからという理由で、もしくは本番のために少し体力を残そうというような考えで、全力をかけられないようでは「今」を取り逃すことになります。 演劇は時間と空間の芸術と言われるように、俳優が同じ台詞をしゃべったとしても、同じ時間、空間は二度とかえってきません。 この「今」に対する価値をどれくらいもつことができるかが問われます。
その一瞬の「今」の価値を一つひとつ積み上げることはとても難しいことだと日々稽古を見ていても感じます。 「“今”、この瞬間にどれくらい全力をかけられるか」の覚悟は、舞台の大きな価値と魅力だと感じます。
2024/07/07
1つを選択する一歩
学生時代、論文を書くにあたって恩師から次のように教えを受けました。
「論文は思考を育てる訓練です、様々な視点やたくさんの言説がある中で、一つの仮説を立て、少なくとも「私はこう考える」と述べなさい、それが自分で考えることの一歩です」
当時はそういうものかなと思う程度でしたが、その後社会に出て色々経験するうちに、人生の教訓のように思えています。
選択肢が多いことは色々な可能性が広がり良い面もありますが、反面、多くの中から何を選ぶのかという迷いが生じます。
私は学生の時分にも「これは正解なのだろうか」とあれこれ迷い、何をしたかったのかわからなくなることさえありました。しかし、その選択の正誤を考えるにも結局のところ、まずは「これ」を決めなければ始まらないし、永遠に迷いをループし続けることになるだけです。
たくさんの選択を持ち続けるよりも、一つを選択した一歩から、豊かな可能性が広がることがあると思います。