「演劇市場は小さい」
多くの関係者が共通認識として持っている現実です。平たくいえば、お金がないということですが、実際、演劇の中でも小劇場と言われる分野では経済的な苦況を抱えながらなんとか活動を続けている人が多いだろうと思います。最近、日本で有名な実業家やタレントが多様なアイディアを駆使し独自の演劇企画を実施して興行的な成功をおさめている事例が増えてきました。それらの成功例は小劇場界の発想力の乏しさと実行力の弱さを突きつけられているようでもありますが、どこかで「別物だから仕方がない」と自分を納得させている部分があるようにも思います。「収益の物差しだけでは測れないものが舞台芸術にはあり、それが社会に有用だ」という主張がこのような状況下では、より声高に叫ばれるものですが、単に「負け惜しみ」にならない為には、もう一歩踏み込んで考える必要があるのだと思っています。現代では何かを実行する際に常に根拠を求めるエビデンス主義が当前とされてきています。実施による効果がどのくらい見込まれ、有用であるかを明示した上で初めて実行に移すという堅実なスタンスであり、舞台芸術業界でもこの考えが一般的となってきているように思います。そして、基準も単に集客人数や収益という観点だけではなく、「子供の教育に役立つ」や「障害者の支援」なども根拠とされています。いずれにせよ、実施対象が明確であり、見返りも分かりやすくはありますが、その一方、狭い範囲で考えられ過ぎているとも言え、ここが市場の拡大を拒んでいるともいるとも言えるのではないでしょうか。私はむしろ「社会にとって有用ではないが必要なのだ」と自らの責任において発言できるかどうかが重要だと考えています。「根拠」に頼らず「目指すべき未来のビジョン」を提示し、自らの主張として責任を負い説得していくという姿勢が必要なのではないでしょうか。私はまず、そのような視点にたって市場拡大を目指す文化政策を立てることが急務ではないかと考えています。不満をこぼし続けるのではなく、諦めずに現実の変革を実践していきたいと思います。