2025/11/16

制作者のコミュニケーション

 制作者がカンパニーや実演家と社会を繋げるハブのような役割だとすると、団体にとって対外的な窓口を担うということになりますので、交渉や情報収集をいかに行うかが問われてきます。 そのような中で「制作者のネットワークをどのように繋げるか」、制作者はここに苦心しているのではないでしょうか。演出家や劇作家の連帯を目的とした協会があるように、制作者のネットワーク組織も大小含め様々存在しております。インターネット時代の昨今は、たとえ足を運ばなくてもそこにアクセスし情報を収集することができるようになりました。しかし、遠隔で得る知識や情報に対して、実際に顔をつきあわせて取るコミュニケーションの方が不思議と具体化に繋がる情報を得ることが多いように思います。私はかつて、東京で開催されていたある制作者の勉強会に参加しました。国際市場を意識する劇団や制作者に向けて、海外のアートプロデューサーへのPRの仕方、資料の作り方を共有・提供するという趣旨のもので、実際に使われた劇場との英文契約書も資料として使われるなど、大変勉強になったことを覚えています。 また、参加者の中には、様々な現場で実際に活躍している人も多く、休み時間には過去に参加したフェスティバルの体験を共有し合うなど、生きた情報の交換ができ大変有意義な時間を過ごすことができました。講座終了後、今後も情報交換ができる場所を、ということでグループチャットが作られましたが、主催者側からフェスティバルの情報が数回流された程度で、うまく活用されずに閉じられてしまいました。やはり、顔を合わせない情報のやりとりというのは、かなりのエネルギーや持続の為の特殊な技術を必要としますし、必ずしもその熱意に見合うものが返ってくるとも限らないという点で簡単ではないというのが実感です。私の経験では、既知の海外のプロデューサーらと定期的に顔を合わせたり連絡を取り合うようになると、そのプロデューサーから派生して「具体的」な情報が入ることがあります。そして、この時のコミュニケーションが実は重要で、情報をもらうだけでなく、逆に相手にとってどういう情報があればウィンウィンな関係になれるか、という共栄意識を持つことが大切だと思っています。自分たちの活動や要望だけに集中しすぎて、この意識が弱まると、結果うまくいかなくなります。制作者が、ネットワークをつくろうとコミュニティを立ち上げてもうまく活用しきれていないのは、この「共栄意識」が弱いところにあるのかもしれません。 舞台芸術分野に限らず、日本のビジネス分野をみても世界と比べてそのような意識が弱いと言われています。神社で購入する商売繁盛と書かれた熊手が、かつては関連会社の反映を願うものであったように、ギブアンドテイクではなく、「ギブアンドギブ」くらいの精神でコミュニティをつくる意識が必要なのではないしょうか。市場も小さく、常に資金不足に悩まされる現実ではありますが、繁栄の独り占めを願うような心の貧乏人にはならないよう頑張りたいと思います。

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