広告宣伝といえば、現代ではインターネット、SNSを活用した広報が普及し、個人、法人問わず、日々多くの人々が利用しています。新聞、雑誌をはじめ、印刷物自体がこうした時代の余波を受けて減少傾向にありますが、それでも紙媒体の広告宣伝物である「チラシ」は、日本ではまだ根強く残っているともいえます。速く、大多数の人に向け、さらには安価に情報が届けられるSNSに対し、お金も手間もかかるアナロジーなチラシは、今の時代にどのような役割をもつのでしょうか。芸術業界では、どの分野でもSNSは利用しながら、チラシもこれまで同様に併用して配布しているというケースがほとんどではないかと思います。私はかつて美術館の情報コーナーで、様々な美術展示やイベントのチラシを集めるのが趣味でした。特に美術分野では、その展示のテーマやコンセプトに応じて、紙質や形、印刷方法などにこだわりがあるものが多く、チラシそのものが作品の一部として持ち帰ることができるという高揚感がありました。私はチラシの役割としてはまだここに可能性があると思っています。多くのものがデジタル化されて、視覚、聴覚への刺激がメインになっている中で、あえて手に取って得られる情報が意外にも多くあるのではないかと思います。
MMSTではかつて、韓国との交流事業公演を初めて実施する際に、チラシを半分に折ることで、公演情報が読めるようになるというチラシを作成したことがあります。この時、海外との「交流」というものは簡単になせるものではなく、あえて手を加えることで見えるもの、というコンセプトがありました。読みにくい、わかりにくいといった苦情も当然ありましたが、それも含め、情報であるという認識です。単にイベント内容や日時場所を伝えるものとしてではなく、そのイベントの世界観や関わる人の価値観に触れること、そして、そのバリエーションの豊かさが、社会の豊かさにも繋がるのではないでしょうか。