2025/11/02

制作者が目指す理想について

 舞台芸術業界における「制作者」の仕事は多岐にわたると言われています。団体によって、その仕事の幅や役割も様々で広範囲に渡るため、時には雑用係と自虐する制作者もいるほどです。私が仕事として「制作者」という立場に最初に足を踏み入れた当時、作家や演出家、俳優、テクニカルスタッフのように、実演部分を直接的には担っていないにも関わらず「制作」と名がついていることに不思議さを感じました。しかし、実際に仕事を進めてみると、公演ひとつとっても企画段階から実施後の処理まで、間接的には全てのセクションに関係していると言っても過言では無い業務内容になりますので、総合して「制作」という呼び名が流通しているのも今では理解できます。では、制作者が目指す理想とはなんなのでしょうか。

 資金調達力、宣伝力や集客力、当日の運営力、事務作業能力、一つひとつを見れば、こうあった方が良いという具体的なイメージはあげられますが、これら全てをオールマイティにやれる人は実はそう多くないと思います。私はかつて、できるだけ広範囲にやれる能力を高めることが理想的な制作者であると漠然と思っていたこともあります。しかし、あらゆる経験を積んできた今、それも少しズレているようにも思うのです。もちろん先に挙げたような能力を高めるに越したことはありませんが、もう少し大きな視点での目指すべき制作者としての理想像も必要なのではないかと思っています。ある現代美術のキュレーターが作家に対して語っていたことが思い出されます。「社会では到底受け入れられないような価値感を生きているアーティストやその作品を、どのような仕組みによって繋ぎ合わせ、社会にとって意味のある出会いにするか」、ここに目指すべき理想像を考える際の大きなヒントがあるように思っています。「作品と社会を繋ぐ」そして、私がさらに付け加えるならば、その理想に対しての責任を最後まで失わずに持てるか、ということになります。現代では、様々な関係性が希薄になったり、容易に切断できてしまい、できれば責任も回避したいということを志向することが当然と考えられるようになってきていると思います。SNSの発達で多様なアイディアや価値観が簡単に共有される時代、あらためて、やりっぱなしで終わらせず、作品と社会を「繋ぐ」という仕事を責任を持って全うしたいと思います。

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