2026/07/02

挑戦としての「アジア戯曲賞」

 韓国・台湾・日本の交流プログラムとしてはじまったEast Asia Theater Interaction(略称EATI)は、今年で10周年を迎えます。このプロジェクトは、東アジアの演劇人が、舞台創作を通して相互の文化芸術を深く享受し、国家の理念と対立を超えた和合と共存の道を創造していくことを目的として2016年に韓国釜山からスタートしました。コロナ禍でも交流の途絶えない方法を探りながらなんとか継続し、韓国、台湾でも2度の巡演開催を経て、今年は2022年以来3年ぶりの福岡での開催になります。この共同創作プロジェクトでは、毎回3カ国の演出家と俳優らが3チームに分かれてそれぞれ一つの作品を創作しますが、同じテキストでも最低3つの言語に翻訳して解釈し、異なる言語の中で意思疎通をしなければなりません。この時「国を超える言葉、戯曲とは何か」という問題に必ずぶつかります。近年は周知の通りAI技術が発達し、翻訳もある程度精度の高いものが短時間で作成できるようになりました。しかし、容易に言葉や文化が越境できてしまうという安易な感覚が生まれてしまっているとも言えるのではないかと思います。立ち止まってよく考えてみると作家が意図した、或いは意図せずとも「書かれてしまった言葉」が翻訳というプロセスを通ることで作品はどう機能するのでしょうか。

異なる文化圏特有の翻訳できない「言葉」の場合は?
意味として通じることだけで成立しうるのだろうか?
「国を超える」言葉はどのように上演されるのか?
 
創作を進めていくと、言葉・翻訳・上演という具体的な要件の中で悩まざるを得ず、ここに創作を通して交流することの難しさと、魅力が詰まっていると私は考えています。そこで今回、EATI10周年を記念して「アジア戯曲賞」を創設することにしました。

『翻訳されることを前提に、自ら多言語テキストを創り出す』

これはアジア戯曲賞の公式サイトに掲げた文言の一つです。単に国を超えた戯曲賞を創るということだけではなく、あくまでこれまでのEATI実施の中で取り組んで来た試みの延長として捉えており、翻訳における言葉のデザインを考える機会という点にこだわっています。

細かい応募条件等はサイトを見ていただきたいと思いますが、この賞では、劇作家自身が「自分の言葉が他言語に翻訳され、異なる文化圏で上演されること」を執筆段階から強く意識することを重要視し、応募する際に「日本語・英語・中国語・韓国語」の4言語すべてのテキストの提出を義務づけています。4言語の翻訳ともなればかなりの負担を強いられると感じるかもしれませんが、今回AI翻訳の活用を推奨・許可しています。現代のテクノロジーも活用しながら、他言語に開かれた「言葉」のデザインを考え、国を超えた多角的な視野を広げていく劇作家・作品との出会いを期待しています。

「アジア戯曲賞」
https://eastasia-ti.org/award2026

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